美術の秋 到来

もうお彼岸なんですね。今年は9月に入ってからは涼しくなり、とても楽でした。
今日は東京国立近代美術館の「菱田春草」展の内覧会へ行ってきました。とてもよかったです。美術学校を卒業してから36歳で亡くなるまでの短い間、これだけの作品を残すなんてやはり天才だと思いました。しかし生前はあまり評価されず、絵も売れなかったということを聞くと、世の中の評価というのもいろいろ変わるものだと考えさせられました。私も名作「菊慈童」(飯田市美術博物館蔵)が前の持ち主から現在の美術館に収まるときに深く関わりましたので、とても懐かしく見てまいりました。この作品が春草25歳の時に描かれたことをあらためて知り、感じ入りました。永青文庫所蔵の「黒き猫」(重文)は10月15日〜11月3日の限定公開ということで今日は見られませんでした。永青文庫といえば去る9月13日、東京美術倶楽部主催の公開美術講座に細川護煕先生に来ていただき「細川家 美と戦いの700年」という講演をしていただきました。なんと国宝1点(螺鈿鞍 「時雨」)、重要文化財3点(「織田信長自筆書状」、「明智光秀覚条々」、「宮本武蔵 紅梅鳩図幅」)、そして白隠「達磨図」、梅原龍三郎「紫禁城」(50号)を東京美術倶楽部の重文室に展示していただくという贅沢で有り難い講座でした。私も同講座の責任者として朝8時から美専車で、それらの美術品を借用に参りました。その日のうちにご返納したのですが、無事に終わるまではやはり大へん緊張しました。しかし展示作品に則した細川先生の興味深いお話の中には、日本の歴史が少し変わるようなものもあり、受講された方々は大へん熱心に聞き入っておられました。永青文庫竹内館長からも懇切丁寧な列品解説があり、皆さん大へん満足されて喜んで帰路につかれました。東京美術倶楽部主催の文化事業としても特筆すべきイベントだったと思います。
9月14日(日)、三島市にある放送大学で「浮世絵に描かれた富士山」という講演をしてきました。北斎と広重の「富士」の描き方の違いなどを中心に1時間半、パワーポイントを用いてお話しましたが、さすが富士山のお膝元、受講者の方々が大へん熱心でいろいろな質問も出て、盛り上がりました。今までやったことのないテーマで講演をするのは、自身でもいろいろ考えたり調べたりするのでとても勉強になります。太宰治の「富嶽百景」に富士山の頂角の話が出てきますが、それも実際に作品で検証しました。太宰は北斎の富士の頂角はほとんど30°くらい、エッフェル塔のようだと書いていますが、実際に計測するとそんなに鋭角ではありませんでした。
9月19日(金)、日本経済新聞社の本社レクチャールームで「北斎漫画の魅力」という講演をしました。これは現在、上野の森美術館で開催中の「ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎」に因んで企画されたものですが、約30名の受講者の方々には私の講演の後、「北斎漫画」のオリジナル本(15冊)を手に取って鑑賞していただきました。皆さん大へん喜んでおられました。その後、柳橋の「亀清楼」で江戸料理を堪能し、最後は元浅草の誓教寺にある葛飾北斎のお墓に皆でお参りしました。引き続き同日夜は、スカイツリーのレストラン634で「酒食の会」がありました。今回は福井県の銘酒「黒龍」の宴でした。創業文化元年(1804)の老舗でありながら、7代目蔵元水野さんは、同じ醸造酒としてのワイン同様に日本酒を熟成できないかと試行錯誤を続け、少量で高品質な酒造りだけを追求し続けているとのことでした。どのお酒もとても味わい深く美味しかったです。私は相変わらずほろ酔い美術講義をしたのですが、スカイツリーの周辺には、ちょうど昼に訪ねた両国橋、待乳山、浅草などが眼下に見え、不思議な親近感がわいてきました。